右肩の蝶、飛んだ。


「結婚に夢見ていない貴方に、幸せが降って来るなんて、それこそ夢よ」

「あー、やっぱり」

「直臣よ? 白馬の王子ではなくあの直臣よ? もっと地味でも顔がイケてなくても貴方の過去を全て受け止めてくれる平凡男子の方がまだ幸せになるわよ」

「過去を同情されるよりは直臣さんの方が良いよ」

「貴方は、今の平凡なふりをしてる日常にしがみ付きたいだけよ。貴方から、幸せになりたいオーラなんて一ミリもないし、幸せになりたい!!ってやる気もみなぎっていない。『私はいつ幸せになるのかしら』って、お姫様でもない癖に、幸せなんて降って来ないわよ」


店長は、いつの間にか食べ終わってしまい、手持無沙汰から冷蔵庫から業務用のヨーグルトを取り出して、大きな計量スプーンでそのまま食べ出した。


「そうなんだよね。満たされない癖に、もう変化はいらないって気もするし。子供もいらないし、式もしたくないし、名字が変わるのが嬉しいけど、なんか結婚してもなんの意味があるのか――でも『普通』ならしちゃうべきよね、結婚」

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