その嘘に踊れ


瑞々しさと艶やかさが共存する、大人になりはじめた浴衣姿の少女が夜空を眺める一瞬を切り取った、絵画のように美しい一枚の画像。

それがアオのPCに送られてきた。

『話がしたい』

との一文を添えて。

PCって…

アオくん、そんなの持ってた?

透子を閉じ込めたあの部屋には、なかったよね?
だって洗脳ツールだもんね?

って、嘘に決まってンじゃん。

洗脳なんて、本気で思ってるワケねーじゃん。
本気で拗らせてるワケねーじゃん。

信じてンじゃねーよ。

ココはマンションからかなり離れた場所にある、あまり手入れの行き届いていない砂利が敷きっぱなしの月極駐車場。

さらに言えば、ソコに駐められた、透子を拉致する時に使用した特徴のない白いバンの中。

バンに隠していたノートPCを膝に置いて運転席に座ったアオは、真っ青になった顔を大きな手で覆って吐き気を堪えていた。

この画像の意味。

それはつまり、透子の生存が知られてしまったというコト。

あぁ、もぅ…

ほんと殺したい。

浴衣姿見たさに、彼女を人目に触れる場所に出してしまった、あの日の自分を殺したい。

口紅なんか贈っちゃって、ほんのちょっと恋人気分で浮かれてたあの日の自分を、マシンガンで蜂の巣にして、土に埋めて、さらに掘り起こして縊り殺したい。

命を懸けて守るべき唯一の人を自ら危険に晒してしまうなんて、万死でも足りねェよ。

それでも、まだ死ねない。

彼女に纏わりつく死の影を、全て払拭するまでは。


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