中毒性アリ!?副編集長に手なずけられました
熱に溺れた日

真塩さんを一言で表すのなら、中毒性の強い男、だ。
付き合っているわけでは無いのに、こんなことができるのは私だけだと、何度も何度も言ってくる。

もしかしたら私だけじゃなくて、他にも私と同じような役目の子はいるのかもしれないと思ったけれど、部屋の中にはひとつも女性のものが無かったし、何より合鍵をひょいと渡してくれたあたり、その可能性はかなり低いであろう。
私が癒しだと、あんな風に何度も囁かれたら、そりゃあ私だって悪い気はしない。

でもきっと、彼は私を恋愛の意味で好きなわけではないだろう。大人の恋愛とはそういうものだ。調子にのって、勘違いして惚れてしまったら、とんでもない火傷を負うことになる。それだけは絶対に避けたい。

そうだ、かなりサービスの良いホストクラブに通っていると思おう。そうすれば本気になることはないし、純粋に一緒にいる時間を楽しめる。

真塩さんはホストだ。真塩さんはホストだ。真塩さんはホストだ。

私は頭の中で、呪文のように何度も何度も唱えた。

「お待たせしました、牛出汁フォーです」
目の前に出されたフォーを見て、私はすぐに割り箸を割った。
「奈々、あんたいっつもそれで飽きないの? あとパクチーくさっ」
パクチーがたっぷり乗った牛出汁フォーは私のお気に入りだ。
ちょうど休憩時間が被ったので、二週間ぶりにいつものタイ料理店で史子と待ち合わせた。
この部署に異動してもうすぐ一ヶ月が経とうとしている。

「どう?仕事慣れてきた?」
史子は長い前髪をかきあげて、冷やし担々麺を啜っている。私もフォーを啜りながら、まあまあ、と一言返した。
仕事には少しづつ慣れてきた。スケジュール感の違いにはまだ慣れていないけれど、ライターさんの癖もわかってきたし、何より特集のテーマを決めることが楽しい。会議にはまだ参加しているだけ、というポジションだが、学ぶことはたくさんあるし、毎日とても刺激的だ。
あまり化粧っけのない私はライバルとしても眼中にないのか、白木さんも普通に接してくれるし、仲良くしてくれる社員も増えた。

とくに、副編集長の轟さんはとてもよく目にかけてくれる。
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