中毒性アリ!?副編集長に手なずけられました
「もう半年も連絡取ってないですし、都合悪い時だけ彼女いるってことにしてますよ」
「あー、それでお前白木のこと怒らせたのか」
轟さんは、納得したように頷き、横のカウンター席に座って、エナジードリンクの蓋を開けた。
「……轟さん、この間はすみませんでした。つい頭に血が上ってしまって……」
そう謝ると、轟さんは遠くの景色を見つめたまま、少しだけ笑った。
「いいよ、お前があんなに取り乱してるレアな所、見れたしな」
「自分でもなんであんなに腹が立ったのか、今でも理解不能です」
「相手が紫水だったからだろ」
間髪入れない返答に、俺は固まった。相手が紫水だったから……? それはまるで俺が彼女に気があると思っているかのような、返答だった。
「……お前さ、暫くちゃんとした恋愛してないだろ。グレーなゾーンに置かれる女性の気持ち、考えたことないだろ」
グレーなゾーンという言葉を聞いて、すぐに紫水や自然消滅した元カノの顔が浮かんだ。
「曖昧な立場に置かれることが、どれだけ辛いか、想像したこともないだろ。お前みたいに人を振り回すタイプの人たらしは」
轟さんは、困ったような笑顔を見せてから、エナジードリンクをぐっと飲み干した。
曖昧な立場に置かれる辛さというものを、俺は確かにちゃんと考えたことがなかった。なぜなら、ちゃんと線引きをしない方が、お互いに楽だろうという考えだったからだ。
でもそれは、俺側だけが感じていることだったのだろうか。
だとしたら俺は一体今まで、何人傷つけてきたのだろうか。
轟さんは、俺のすぐ隣にあったゴミ箱に空き瓶を投げ捨て、何も言えず固まっている俺に最後に呟く。
「紫水は、お前のこといつも目で追ってたよ。……単純で、分かりやすいと思わないか」
なんで轟さんがそんなことを知ってるんですか、なんて、野暮なことは聞けなかった。
轟さんは紫水を見ていたから、彼女の視線の先も見ていたのだ。
「そろそろ分かりやすい愛し方ができる男になれよ。じゃないとお前も、俺みたいに失敗するぞ」