Uncontrolled(アンコントロールド)
「ん? どうした?」

視線に気付いた朝倉がガラス越しに聞いてくる。

「……ちょっと、高校時代を思い出してました。そういえば、先輩たちが休み時間にグラウンドでサッカーしてるの、クラスの女子たちでキャーキャー言いながら窓から見てたなぁって」

少しでも朝倉がアクションを起こせば、女子生徒達は黄色い歓声を上げ、その度に面白くない男子生徒達からブーイングが起きていたが、女子はそれをものともせず、我先にとばかりに手を振ってアピールしていた。

「あったね、そういうの。思い返せば、あの頃が俺の人生の中で一番のモテ期だったかな」

遠い昔のことだとでも言うように、まるで他人事のような朝倉に対し、星名は非難の声を上げる。

「先輩は、今だって、大学の頃だって、女子からほったらかしにされた事なんてないでしょ。見ればモテるの分かるのに謙遜するのって、逆に嫌味じゃないですか?」

その眼を見れば、分かる。いつだって凛々しく、周囲を頷かせるだけの自信に溢れている。驕りのない澄んだ瞳に映る自分の姿を見つければ、何者でもない星名が急に価値のある人間に思えてくる。朝倉という人間は、そういう不思議な魅力を持っている。

「だって本当のことなんだから。星名ちゃんくらいだよ、そう言って俺に自信くれんの」

ふっと溜息交じりにも、はにかむようにも笑った朝倉は、次の瞬間、星名に向き直ると、頬杖を突いて柔和に微笑む。その瞳からは、数瞬前まで湛えていた純粋さは消え失せていて、男の色香を孕む色へと途端に変貌を遂げていた。

「…………っ!」

まるで稲妻が一瞬にして全身を駆け巡ったかのような焦燥と灼熱。
最後に胸を貫いたその衝撃こそ、星名が望んでいたものだった。
けれども、とっくの昔に忘れていたはずのそれはあまりの破壊力で、図らずもきゅううと、心臓が鷲掴みされたような痛みに喉が詰まる。助けを求めるようにその瞳に縋りつきたくなって、思わず手を伸ばしてしまいたくなる気持ちをかみ殺すように、そっと喉の奥で生唾を飲み込む。耳まで真っ赤になってしまいそうな自分を抑え込んで、星名はにこりと笑った。

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