やさしい眩暈
ルイは「そうかなあ」と首を傾げているけれど、絶対そうだと思う。



リヒトは私に対して、欠片ほどの優しさも思いやりも持っていない。


それでいい。

そうじゃないと困る。


リヒトが私の幸せを願ってくれているだなんて思ったら、私はまたリヒトから離れられなくなる。



もう疲れた。


リヒトに囚われているのは疲れた。



リヒトが私を要らないと言ったのだから、リヒトの音楽にとって私が邪魔だと言ったのだから、

私はもう、リヒトを諦める。



だから、リヒトは永遠に、冷たくて残酷で、自分勝手な、最低最悪のひどい男。


それでいい。




「………ありがとね、ルイ」



そういえばお礼を言っていなかった、と気がついて、私はルイを見上げた。


こんなに寒い冬の早朝に、街中を歩きまわって私を探してくれたルイ。



「見つけてくれて、ありがとう」



ルイのジャケットに包まれていると、温かくて、不思議と素直な気持ちになれた。



「どういたしまして」



やわらかな微笑みで私を見つめるルイの顔が、朝陽にふちどられて輝き、目が眩むような気がした。




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