やさしい眩暈







リヒトと別れてから、何かものすごく大きなことが終わったあとのように、私はほとんど放心状態で過ごしていた。



たとえば、何日も続いた高熱が引いたあとのような、

フルマラソンを終えたあとのランナーのような、

長く夢見ていた武道館でのライブを終えたアーティストのような、

何年もかけて構想を練った天井画を描き終えた画家のような。



なんだかとてつもなく大きな出来事が終わったあとの、奇妙な脱力感と茫然自失。



喜びでも悲しみでもなく、自分の中にぽっかりと大きな穴が空いたかのような感覚で、私はぼんやりと毎日を送った。



年末年始は店が休みになるので、クリスマスのあと三日間バイトをしたあとは、部屋に閉じこもって正月を過ごした。



まるで廃人のような、夢遊病者のような生活だったけれど、ルイからの電話やメールだけが、私を現実につなぎとめてくれていた。


一日に一度、律儀にかかってくる電話。

内容はたいしたものじゃなくて、ただ流れに任せて会話するだけ。



『レイラさん、初詣は行きましたか?』



今日も電話の向こうからルイの声が、いつものように穏やかに響いてくる。


ルイは正月は実家で過ごす習慣らしい。

この電話も、東京から遠く離れたルイの地元からかかってきているのだ。




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