やさしい眩暈







「じゃあ、ミサトさん、お先に失礼します」



洗い物をしているミサトさんの背中に声をかけると、「おつかれー」とかえってきた。



「ほんとすみません、全部お任せしちゃって」


「いいのいいの。いつも頑張ってくれてるからねえ、うちの副店長さんは」


「………その呼び方、やめてくださいよ。慣れないです」


「あはは、もう半年以上たってるのに」



ミサトさんはおかしそうに笑った。



「それはさておき、レイラ、ちんたらしてないでさっさと帰りなさいよ。愛しのルイが待ってるんでしょ?」


「い、愛しのルイって………」


「あら、愛しくないの?」


「………もう、からかわないでください」


「ごめん、ごめん。で、今日は二年目の記念日だっけ? 今からディナーでも行くわけ?」



私は曖昧に微笑んで頷いた。


確かに今日は私とルイが付き合いはじめて二年目の記念日だけど、今夜は二人でお祝いのディナーをするために待ち合わせているわけではないのだ。



「………じゃあ、失礼します」


「はいはーい、気を付けてねー」


「ありがとうございます」



私はミサトさんに頭を下げてキッチンを出た。


スタッフルームで着替えて、荷物をもって通用口に向かう。




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