傍にいて欲しいのは
三人の関係
「信じてないでしょう?」
 私だって信じられない。幻だと思いたい……。

「そうじゃない。莉奈は妻のことを病気だということ意外何一つ知らないはずだから……だが……」

「いいの。きっと誰も信じないわよね」
 もちろん他の誰にも話すつもりもないけれど……。
「私たち、しばらく会わない方がいいと思う」
 考えたかった。これからの私たちのことを……。

「プロポーズしただろう? 忘れたのか? もう莉奈に寂しい思いはさせない 」

「嬉しかった。私のこと遊びじゃなかった。それが分かっただけで」

「僕がそんな男だと思っていたのか?」

「ううん。でも私が奥さまを傷付けていたのは確かだと思うの。人の悲しみや涙の上に成り立つ幸せなんて無いんだと思う」

 奥さまの存在を知った私の苦しみ。きっとそれ以上に傷付いていた奥さま……。

「もうあいつは居ないんだ。僕の傍に居てくれないのか?」

「少し時間が欲しいの」

「莉奈を愛してる。君を手離すつもりはない」

 隆文さんに抱きしめられた。その胸の温もりと包み込んでくれる逞しい腕……。



 私は初めて黒沢課長が食事に誘ってくれた日を思い出していた。憧れていた上司と二人だけで楽しい時を過ごして幸せだったあの日。
 隆文さんと私が愛し合うようになるのに長い時間は必要なかった。



 そして私は今朝、会いに来てくれた奥さまを思った。

 何年も病と闘い……。私の存在を知っても心からご主人である隆文さんを愛して、自分がこの世界から消えてしまっても愛し続けた一人の女性。

 亡くした赤ちゃんを大切にするとまで言ってくれた。不思議な秘密を共有する昔からの親友のような気さえする。

 愛する人の子供を授かることの出来なかった女の痛み。その存在に気付くこともなく亡くしてしまった女の痛み。それぞれの痛みを解り合えていたのかもしれない。


 生きていく事と死んでいく事、すべてを乗り越えて……。

 もしかしたら掛け替えのない友人として向き合えていた。そんな風に考えることが出来た。

 同じ一人の男を心から愛した女として……。

 女二人が醜い嫉妬心を懐いて一人の男を奪い合った訳じゃない。ただ同じ男を愛した。それだけ……。

 奥さまと私は、お互いの存在を認め合っていた。今思えば、そんな気がしている。とても複雑な関係ではあるけれど……。


 きっと説明しても、隆文さんには分からない。

 あの人は男で……。私は女だから……。



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