有害なる独身貴族

「そうですねー。やっぱ夏バテ対抗メニューでしょうか」

「今のやつは五月病対抗メニューって言ってたじゃん。謳い文句が似通うと面白くないな。むしろ夏の素材を活かした方向に持っていきたい」


……店長は、接客に関しては何の役にも立たないけど、料理に関しては本当にこだわる。

契約農家は彼が自分で交渉して決めてきているらしいし、使う肥料の種類なんかを電話で話しているのを聞いたこともある。

彼が何を思って、この店を五年前に立ち上げたのか、私は知らない。

あれから彼に何があったのか。
気になるけれど、聞けない。

彼は私のことを覚えてなどいないだろうし、思い出されるのは、私にとっても恥ずかしいことだから。


ズッと汁を啜る音が目の前からした。

店長、食べるの早いな。もう終わったのか。

まじまじ見ていると、彼は私ににやりと笑いかける。


「ところでさ、つぐみ。今度の定休日、俺に付き合わない?」

「はい?」

「デートしようか」

「……はい?」


店長は私を真剣に見つめた……かと思ったら今度はイキナリ笑い出した。


「あはは、つぐみのその顔」

「は? どんな顔ですか。ていうか、人の顔見て笑うのとか凄く失礼」

「だってさ。鳩が豆鉄砲食ったみたいな顔してさ。……そんな気負わなくてもいいって。気分転換に行こうってだけだよ。光流にフラレたんだって?」

「なっ」


数家さんか?
ああもう、なんでそんなこと教えちゃうのよ。

この二人ツーカー過ぎて嫌だ。

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