有害なる独身貴族

「まずはここから見るぞ」


到着した店はいわゆる百貨店で、彼は迷いもなくエスカレーターにのりベビー服売り場へと向かった。

ん? 今日は何を買いに来たんだ?
デートって言ってたけど、普通デートでベビー服売り場は来なくない?


「店長……じゃなくて片倉さん。今日の目的はなんですか?」

「あれ、言ってなかったか? 友達のとこに子供が生まれたから、お祝い買いたいんだ。つぐみ、選ぶの手伝ってよ」

「聞いてませんよ。そうならそうと先に言ってくれればいいのに」


なんだよ。だったら服装なんてそれこそ何でもいいじゃん。

デートだなんていうから、無駄に気にしちゃったのに! 
朝から緊張してバッカみたい。


「期待してたか?」


からかうように問うてくる片倉さん。


「違います。誰が店長みたいなタラシに」

「タラシかぁ? 俺」

「女の人とっかえひっかえじゃないですか」

「あれはあっちもそういうつもりで付き合ってるから問題ないんだよ」

「鬼畜!」

「俺に真っ当な恋愛なんかできるわけ無いだろうが」


サラリと言われたけれど、それは妙に自虐的に響いて、私は一瞬言葉を無くす。

いけないことをしてしまった気分で、近くにある赤ちゃんウェアーを手にとった。
小さな服はまるでぬいぐるみのものみたい。


「……真っ当な恋愛って、こういうものを買うような恋愛ですか?」


片倉さんは、白い小さな帽子を手に取り、指先でくるくると回す。


「柔らかくて白いものなんて、俺から一番遠いものだな」

「どうして?」


私の問には答えない。
くすりと笑って、話を逸らした。


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