有害なる独身貴族

そうだよ。
気にしたって仕方ない。


「さて」


私は立ち上がり、パイプパンガーにダブルガーゼのシャツワンピをかけた。

優しい薄緑色。肌に柔らかく触れる生地。
高級なものは、触れる人間に優しくできるようになっているんだろうか。

だとしたら、私の両親はきっと高級ではなかったのだろう。


「って言えるほど、私も高級じゃないか」


所詮はあの両親の子だ。
あんなに優しかったおばあちゃんを心配させて、そのまま死なせてしまった。


「……休憩しよ」


ため息をついてお湯を沸かす。

一息つきたいときは煎茶。
おばあちゃんっ子の私にとっては、珈琲とか紅茶よりもよっぽど馴染みの深い飲み物だ。前にお茶屋さんで買ってきた袋を開けよう。

数分後には、優しい香りが辺りに広がる。
入れてみて、そういえばこれも緑色だなと改めて思った。
今日貰った服の色にも少し似てるかも。


ズズズと小さく音を立てながらお茶をすする。

口の中が引っ張られるような感覚を与える渋み。これが美味しい。


五月ももうすぐ終わり。

室温は暑いくらいだけれど、温かいもののほうが胃が温まって落ち着く。
鍋を食べるとなんだか安心するのも、そんな理由からかも知れない。


「温かいものは美味しいよねぇ」


目を閉じると不意に母の姿が瞼をかすめた。
おばあちゃんのことをやたらに思い出していたせいか、思い出の封印の鍵が緩んでいるみたい。

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