有害なる独身貴族



昼になって、一本の電話がかかってくる。


『調子どうだ? つぐみ』

「あ、店長。すみません、お休みして」

『いいよ。ちゃんと治してから出てこい』

「熱は下がったんで、明日から行けます。咳もひどくならなかったみたいだし」


風邪と言うには余りひどくならなかったから、きっと知恵熱だったんだろう。
最近色々考え過ぎちゃってたもん。


『信用ならないな。おまえは無理しいだから、俺が判断する。今日は大人しく寝とけよ』


そう言って電話が切られてしまう。
なんなんだ、相変わらず横暴な。


そしてその会話の意味を、夜になって私は知る。


『今日は鍵かかってるな』


と、満足そうに電話と扉越しに話す深夜の片倉さん。


「……来るなら来ると言ってくださいよ」

「何時になるかわからなかったからさ」

「だったら余計言ってください。寝てたらどうするんですか」

「その時は帰ればいいかと思ってな」


昼に寝すぎてしまって眠れず、電気をつけておいてよかった。

扉を開けると、タッパの入ったポリ袋が差し出されたので、「昨日のタッパも返したいので上がってください」と告げる。


「じゃあ邪魔するわ」


店長はすでに慣れた様子で部屋に入ってくると冷蔵庫をチェックする。

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