有害なる独身貴族


 祖父母の家で暮らしたのは、小学五年生から、二十歳になるまでの約十年だ。

高校卒業後、入社したのは都内の小さな建設会社。
事務仕事を担当させてもらって、パソコンの扱い方もそこでしっかり教えてもらえた。

初めてのお給料日、私は祖父母を外食に連れだした。
近くの定食屋さんの、定番のお刺身定食だったけど、おばあちゃんが泣きそうになって喜んでくれて私も凄くうれしかった。

通うのには遠かったけれど、私は二年、祖父母の家から仕事に通った。
独り立ちするための資金を貯めるためだ。

そして二十歳を迎えたのをきっかけに、一人暮らしをすることにした。
大人になったのだし、これ以上祖父母に経済的負担をかけるのは違うと思って。


「ずっとうちにいればいいのに」

「うん。でも一人で生きられるようにならないと」

「まあねぇ。つぐみに年寄りの世話させるわけにもいかないか」


そういうつもりで言い出した一人暮らしではなかったけれど、多少誤解させる部分はあったのかもしれない。
おばあちゃんは寂しそうに笑って、おじいちゃんは苦い顔をした。

否定をせずにいたら、祖父母の中ではその理由こそが本物になってしまったのかもしれない。

それ以降、大きな休みには必ず家を訪ねたけれど、おじいちゃんはどこか冷たくなってしまった。

誤解の解き方が分からなくて、私は混乱した。

でも、敢えて言葉にするのは言い訳みたいでおかしい気がして。
一緒にいる時に楽しい顔をするのが唯一出来たことだ。


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