蒼いパフュームの雑音

プロローグ

 別に誰でも良いわけじゃない。
私にだって好みはあるし、どうでもいい人と朝は迎えない。

ただ、なんとなく独りでいるのが寂しい時、電話をすれば会ってくれるヒトが居て、それが少し好みの男で、少し私の事を好きで居てくれれば。


 ここからの眺めが大好きだ。

都心から電車で20分。駅から歩いて15分。
少し古いけどデザイナーズマンションの4階、柊は住んでいる。

 玄関には私の趣味じゃない女物の靴があって、洗面台には色違いの歯ブラシが二本と、これ見よがしに化粧品が置いてある。
私じゃない女がいることは知っている。
どこの誰だかもわかっている。


 柊とはもう5年の付き合いになる。
友達の誘いで行ったライブで出会ったベーシストだ。
 
いわゆるカレシ、カノジョとゆう関係ではない。

身体だけの関係？そうゆう付き合いでもない。

なんでも話せて、なんでも相談できる。
食べ物の好みも似ているし、音楽の趣味や洋服のセンスも抜群に気が合う。

なのにどうして付き合わないの？

と、友達は言うけど、付き合えば別れが辛くなるから。

ただの私のワガママ？強がり？いい女ぶりたい？束縛されたくない？

そんなちっぽけなプライドで、こんな関係が続いている。

『出会ったのは必然なんだよ』とか、『前世でも出逢っていたんだよ』なんて冗談をよく柊は言う。

ロマンチストで優しくて、優柔不断で少しズルい柊が大切だ。



  今日も仕事が終わり、少し会いたい様な気がしていたら電話が鳴った。

私の家からは近くないけど、足が向いてしまうのは、何処かで柊に会える事を楽しみにしているからなのだろう。

 エレベーターの無いこの4階建てのマンション。
  疲れ気味のヒールで上り、インターホンを鳴らせばあの笑顔がドアから覗く。

シンプルな部屋には無機質な機材が積まれていて、その奥には大き目のベッドがあり、それをまたぐとバルコニーがある。

冷蔵庫からビールを取ってバルコニーに向かい、ビール同士を軽くぶつけて、外を眺める。

  夜と朝が混じり合う時間。
ビルや家や道、街灯や咲き始めた春の花までも蒼く染める時間。まだまだ街も眠っていて、たまに新聞配達のバイクの音が響く。


 他愛のない話をして、キスをして心地の良いシーツに滑り込む。


  首筋から耳、背中にかけて唇を這わせて、曲線をなぞる指に反応する私は、この一瞬だけ、柊を独り占め出来る。

  そして本当の朝を迎え、目覚めるといつも思うんだ。
隣で安らかに眠るこの男との関係、いい加減どうにかしたいと。