蒼いパフュームの雑音
1.蒼
「紅子さん、ご指名です」

「はぁーーい」

やる気の無い返事にカウンター内の店長が睨む。

 六本木のクラブ。とゆうか、キャバクラ。
スタッフが20代前半で固めている店にとって、29歳とゆう私は邪魔モノ以外の何物でもない。

かろうじて、昔からのお客さんが途切れずに来てくれているから、店長も文句は言わないものの、無言の圧力とやらは少なからずある。
 
お給料の為。そんな感じで働きながらも、 代わり映えしない毎日に嫌気がさしている。けど、新しい何処かや何かを見つけ出す勇気も無い。

平凡な毎日が、幸せな毎日ってやつだ。



「ダイヤモンドとか、降って来ないかな。」


ため息混じりに呟いた私の顔を横目でチラッと見て、すぐスマホに視線を落とした19歳の楓がクスッと笑う。

「紅子さんてロマンチストなんですね。」

私は思いも寄らない言葉に背筋が伸びて、飾られた楓の指先がスマホの上を滑るのを黙って見てた。


(あいつほどじゃないよ)



  左手首の安物の時計が12時を回る頃、締め付けられたドレスから解放され、足取り軽やかに家路に着く。

 いつもの駅、地下への階段、いつもの電車、そして日々のエンディングは家から3分の所にある、オレンジ色の優しいランプが灯されたバーで、気のしれたマスターと他愛の無い話しをしてビールを飲んで帰って寝る。


 サクッと飲むつもりがいつも朝を迎えてて、バーのドアを開けると朝日にげんなりする。

  こうして、私の変わらない一日が終わる。






 ブ、ブブブ、ブ、ブブブ、、

(あー、電話マナーモードにしっ放しだぁ。大量にメッセージが来てるな。)


開かない瞼と起き上がれない身体を引きずり、ベッドから這うようにテーブルにある電話に手を伸ばす。

『未読12件』

メッセージの送信相手は15年来の親友、未奈からだった。

『rosé rouge(ロゼルージュ)の日本公演決定だよ!!!』

rosé rougeは高校時代からのファンで、8年前に世界デビューしてからは、日本公演がほとんど無く、今回のライブは約10年振りだ。

 未奈が興奮した文面で、イラストとどれだけ熱望していたかを連続でメッセージが届く。

 彼女と私は高校生の頃から彼らを追い掛けてて、未奈はスタッフと知り合いになり、付き合い、そのスタッフを踏み台にし(!)のし上がり、少しのコネで現在は音楽系の雑誌編集に携わる仕事をしている。


『チケットも心配ご無用!東名阪、もちろん全部行くでしょ!?今回もプラチナチケットだと思うよ!』


そんな誘いに、久々に胸が高鳴る。

(ライブかぁー。ダラダラの毎日にやっとダイヤモンドが降って来たかな。)

私は親指を立てたイラストを未奈に送信した。
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