乾闥婆城
 おしのは己の喉元に手を当ててみた。

 ぎりぎり着物で隠れている喉元は、がっつり肉が抉れて穴が開いている。
 ぽかりと空洞なのは、骨も砕けているからか。

 男は香炉を引き寄せ、ゆらゆら立ち上る細い煙を手の上に集め、ゆっくりとそれをおしのの喉の穴の前に持ってきた。
 穴の前で、ふ、と軽く息を吹きかける。

 ひやり、と冷たい空気と共に、香の煙は穴に吸い込まれた。
 同時に、ほわ、とおしのの喉の穴が塞がった。
 煙が、肉に変わったようだ。

「これでよし。家の中では、いつもより気分がいいだろう。香がいつもよりよく効くしの。したが、あ奴らの食事が終わるまで、厨に行ってはならぬよ。わしらと同様、あ奴らも元気だからの。下手に食事中に姿を見せると、お前まで食われてしまうよ」

 男に寄り添ったまま、おしのはこくりと頷いた。

「いい子だの。新しい毬が手に入ったぞ。まだ装飾はしておらぬが、雨が止んだら絹糸で飾るがいい」

 そう言って、ふわ、と男が手の上で袖を振った。
 ぽん、と手の上に現れたのは、真っ白い髑髏(しゃれこうべ)。

 おしのは髑髏を受け取ると、広い座敷の中で遊び始めた。
 暗く蜘蛛の巣の張った座敷の中に、真っ白い髑髏が、おしのに投げられるたびに、ふわふわと舞った。



*****終わり*****

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