乾闥婆城
「おやおしの。何を持っておる?」

 ふと、男がおしのの袂に目をやった。
 おしのは素直に、袂から甘味処の女将から貰った飴玉を取り出し、男の手に乗せた。
 少し、男の目が細くなる。

「いつもの女か。よほどおしのをこの世に置いておきたいようだの」

 薄ら笑いを浮かべて言いつつ、男はおしのを見た。
 特に咎めている口調でもない。

 相変わらず無表情なおしのの目の高さに飴玉を持ち、男は、どうする? と言うように片眉を上げた。
 ふるふる、とおしのが首を振る。

「いい子だの」

 にぃ、と笑った途端、男の手の上の飴玉は、どろりと溶けた。
 さっと、おしのが膝でいざり寄り、懐から出した懐紙で男の手を拭く。

 男に近づくほどに、香の匂いがきつくなる。
 男はヒトとは思えないほどの白い手を、おしのの頭に置いた。

「おや、また肉が落ちてしまったな。雨の日は香がよく薫るが、外に出ればあっという間に薫りが落ちてしまう。雨の日の買物は、急がねばならぬよ」

 男に寄り添って見上げるおしのの首に手を当て、男が優しく言う。
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