美しいだけの恋じゃない
「あ、ごめん。先にそれやっちゃった方が良いよね」


私が手に提げているポットの存在に遅ればせながら気付いたようで、田中さんは慌ててそう言葉を発した。


「私達も荷物置いて来ちゃうから。その後にじっくり話を聞くわ」

「ですね。ロッカールーム出たとこの廊下で落ち合いましょうか」


田中さんの言葉を受けて佐藤さんが話を進める。


「もし須藤さんが先に終わったらそこで待っててくれる?始業時間までにはまだまだ余裕があるし、大丈夫だよね」

「はい。分かりました」

「それじゃ、そういう事で」

「また後程」


言いながら歩き出したお二人に、頷いて応えてから、私も流し台へと向かった。


ポットをいったん台の上に置き、順番に上蓋を外して中身をざっと濯いだ後水を注ぎ入れる。


蓋を装着し直し、水滴をキッチンペーパーで拭き取ってからカウンターの定位置に戻して、コンセントを繋ぎ、沸騰ボタンを押した。


次に出入口付近の長机の前まで移動して、その上に置いてあった「3F/営業一課」とペン書きされている紙袋の中を覗き込む。


個包装のインスタントドリップコーヒー、紅茶のティーバッグが数十包詰め込まれているビニール袋が入っていて、それの間に紙が挟まれていた。


内容物の種類と数が把握できる伝票である。


袋を手に、営業一課に割り当てられている食器棚の前まで歩を進め、下部の観音開きの扉を開けた。
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