美しいだけの恋じゃない
逢う魔が時


月曜日は慌ただしく、火曜日はあっけなく過ぎ去り、気付いた時には週の真ん中まで差し掛かっていた。


「今日はノー残デーだね」


お昼の休憩時、社食にて、同じテーブルに着いている田中さんが『ベーコンとしめじの和風パスタ』をフォークでクルクルと巻き取りながら言葉を発した。


「佐藤さんは恒例のヨガ教室でしょ?」

「あー…。今日はちょっと、やめておこうかな、と思って」


ハム玉子サンドを咀嚼している所だった佐藤さんは、ちょっとくぐもった声で返答した。


「ん?他に何か用事?」

「…いえ。実は今、ちょっとアレでして…」


眉尻を下げ、声のトーンを抑えてそう言いながら、佐藤さんは下腹部を左手で撫でた。


大抵の女性ならその動作で言いたい事は理解できる。


しかしその瞬間、私の心臓は大きく波打った。


「ちょっとしんどいので、今日は大人しく家に帰って安静にしてるつもりです」

「え?佐藤さんて、重い人だったっけ?」

「いや、普段はそんな事ないんですけど、今回予定日よりちょっと遅れたんですよ。そしたらいつもより量は多いし痛みは強いし、いやんなっちゃいました」

「あらら。大丈夫?」


ヒソヒソと続くお二人の会話を聞いている間に、どんどん鼓動が速くなる。


「女性の体はデリケートだから。ちょっとした事で周期が狂うよね。鎮痛剤は飲んだの?」
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