美しいだけの恋じゃない
『俺ってキャラ的に、ちょっとぞんざいな扱いを受けたりないがしろにされたりする事が多々あるから。あの職場でそういう対応をされたのは初めてで、すげー新鮮に感じたのと同時に、心底嬉しかった』

「え?」

『良い子だな~って思ったんだ。その時から俺、須藤のこと…』

「あの、すみません。何だか最後の方雑音が入ってしまって、よく聞こえなかったんですが」

『あ、いや、何でもない』


何故か彼は慌てて話を打ち切る。


『それじゃあ、言われた通り、気を付けて帰るから』

「…はい」

『また明日会社で』

「はい。失礼いたします」


そう言葉を発してから電話を切った。


終わった……。


思わず深くため息。


もうこれで私は、この件に関して頭を悩ませる事はなくなるだろう。


……彼と連絡を取り合う必要も。


そこで私はケータイと、左手にずっと握ったままだったメモをテーブル上にそっと置いた。


しばし思案した後、メモの方を右手で取り上げ、くしゃくしゃに丸めてテーブル脇のゴミ箱に投下する。


さてと。
夕飯でも作ろうかな。


心の中でそう呟きながらすっくと立ち上がった。


久々に食欲も出て来た事だし。

とても良い傾向だよね。


何故か心のどこかに、大いなる引っ掛かりを感じながら。


後ろ髪を引かれるような思いを抱きながらも、私はそれを無理矢理振り切り、キッチンへと向かったのだった。
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