美しいだけの恋じゃない
闇を抜けて


アパートの、見慣れた部屋のベッドの上で、私は今日も新しい朝を迎えた。


だけど、昨日まで目にしていた景色とは、何かが微妙に違って見える。


とはいえ朝の忙しい時間帯に、その件についてじっくり考察をしている余裕など、当然ある訳はなく。


私はベッドから抜け出すと、いつものように出勤の為の準備を開始した。


会社に着き、営業一課を経由してから給湯室へ。


今日1日頑張れば、とりあえずしばらくの間、お茶当番からは解放される。


そして明日明後日と二連休が待ち構えている。


週の最終日、気合いを入れて乗り切ろう。


そんな風に自分自身を奮い立たせつつ、朝の段階での当番の任務を終え、営業一課へと戻った。


デスクに着いて端末を立ち上げていると、門倉保が姿を現す。


「……おはよう」

「おはようございます」


身構えることなく、心を無にする必要もなく、素直にナチュラルに彼に挨拶を返す事ができた。


……もう、大丈夫。


これで彼とは完全に、職場の先輩後輩の間柄に戻れた。


以前のような尊敬の念とか、憧れのような気持ちは、もう取り戻せないだろうけれど。


あの夜から抱いている怒りや恨みや憎しみは、きっと完全には払拭できずに、胸の奥底にしこりとして残ってしまうだろうけれど。


ただ仕事で関わるだけなら、何ら支障は来さない。
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