美しいだけの恋じゃない
部長の提案に金子さんはキレ気味に答えた。


一応他の人への対応に比べれば遠慮が見られるけれど、それでも年齢も役職もだいぶ上の方に対してここまでの態度が取れてしまうその精神構造に改めて度肝を抜かれる。


「……そうか。色々な事を考慮して、金曜日にこの処理を行う決まりになってるんだもんな」

「やっぱり今日中に動いてもらうしかないですよね。申し訳ないけど金子さん、よろしくお願いします」


言いながら、井上主任は彼女に向かって頭を下げた。


「ちょっと、しゅ、主任がそんな事する必要はないじゃないですかっ」


私もギョッとしたけれど、佐藤さんがとても慌てた様子で井上主任にそう言葉を投げかけた。


「そうよねぇ。そうすべき人物は、他にいるわよね」


そこで金子さんが私を真っ直ぐに見据えながら言い放つ。


「謝ってよ」


一瞬その場が静寂に包まれた。


「あなたがだらしないせいで、私は余計な仕事が増えて残業しなくちゃいけなくなったし、こうして色んな人に迷惑をかけてるんだから。『申し訳ないことをいたしました。以後気を付けますので、どうかお許し下さい』って、深々と頭を下げて、誠心誠意、謝罪しなさいよっ」


そして高圧的な金子さんの声が室内に響き渡る。


「そうすればもう、この件はチャラにしてあげるから」
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