美しいだけの恋じゃない
胸元に顔を埋める形になり、唇が圧迫されて、とても声が出しづらかったけれど、構わずに続ける。


「だから、どうしても嫌いになれなかったのに、心から憎み切る事ができなかったのに、結局私を一人置き去りにして遠くに行ってしまうなんて、そんなの酷いですっ」

「ごめん」


私の後頭部に手を添え、更に自分の方に引き寄せながら、門倉さんは囁いた。


「バカだな、おれ…。ホントバカだ」


彼の声も震えていた。


「俺にもう一度、チャンスをくれないか?」


その言葉に促され、私はそっと顔を上げる。


「今度こそ、須藤の気持ちをないがしろにしたりしないから」


その間に後頭部にあった右手は私の左頬へと移動し、指先で優しく、遠慮がちに、涙を拭われた。


右頬も同様に。


「やっぱ転勤はやめた。ここでバリバリ頑張って、ここで頂点に立つ」


「……で、でも、私…」


突然浮かび上がったその不安要素を、私は反射的に口にしていた。


「また、あんな事を、できるようになるかどうかは…」


そこで思わず目を瞑り、俯く。


「……そんなことどうでも良い」


肝心なワードは口にしなかったけれど、それでも彼には伝わったようだ。


「須藤と体で繋がれなくたって、心が繋がっていれば、それだけで…いや、それこそが幸せだから」
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