美しいだけの恋じゃない
「そんなの綺麗事です」


私は瞼を開きつつパッと顔を上げ、自分でも自覚できるくらい鋭い視線を彼に向け、毒を吐き出した。


「男の人が…。門倉さんみたいな若くて体力があり余っているような男性が、あ、ああいった行為を、この先ずっと、我慢できる訳がないじゃないですか」


「……つくづく信用を無くしちまったな、俺」


彼は悲しく微笑む。


「そしてゴメン。そんな事を、君の口から言わせてしまって。でも、これから時間をかけて、証明していくから」


眉尻を下げ、彼は声を絞り出した。


「だから、これからもどうかずっと、須藤の傍にいさせて欲しい…」


祈りという表現が相応しい、切実な訴えだった。


最低最悪な始まり方をしてしまった私達の恋。


美しいだけの思いじゃいられない。


この一件で、自分の中に、これほどまでに汚くて醜くて、どす黒い感情が渦巻いていたのかと衝撃を受けたし、私にその真実を突き付けた彼の事を更に恨んだりもした。


だけど。


それでも、どうしても、決して消す事のできない、ひたむきで揺るぎない恋情も、確かに存在していた。


未だ胸の奥底で燻っている彼へのわだかまりを凌駕して、その思いだけがこの胸を満たしてくれる日が、いつか訪れるのだろうか。


完全に彼を受け入れられる日が。
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