美しいだけの恋じゃない
「……そうだ」


そこで彼はふと、何かを思い出したようにポツリと呟いた。


「最も肝心な事を言い忘れていた。あの時のあれは、どさくさ紛れにも程があったし……」

「え?」


彼はそこで表情を改めると、静かに真摯に言葉を紡いだ。


「好きだ、須藤」


瞳の奥に、暖かく柔らかな光を宿して。


「ずっとずっと好きだった」


とても小さく、遠くにあって、決して触れる事はできないけれど、この身をすべて包み込むような、その輝きの存在感、美しさに、私は思わず息を飲んだ。


暗い夜道を歩き続け、ふと見上げた朝まだきの空に、明けの明星を見つけた旅人のように。


「出会って間もない頃から、須藤のその美しい心根に、どうしようもなく惹かれていたんだ」


彼の言葉に、魂まで揺さぶられたのが分かった。


甘い切なさだけが、心の中を支配した。


【………だったらもう、良いんじゃないの?】


どこからともなく、正体不明の、だけどとても馴染みのある、誰かの声が響いて来る。


それに後押しされるように、私は再び彼の胸に飛び込んだ。


その広い背中に腕を回し、きつく、強く抱きつく。


すがるように、私の存在すべてを委ねるように。


そして私は密かに、切に願ったのだった。


どうかこの清らかで美しくて尊い感情が、私の中に、未来永劫留まっていてくれますようにと。
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