美しいだけの恋じゃない
現に一課の中では断トツに営業成績が良く、また、主任が大がかりなプロジェクトを抱えており、チーム全体で処理に当たっていて、それが本格的に始動するのが来年度からなので、このタイミングでメンバーチェンジは行われないだろうと予測している。


だから必然的に、しばらくの間、門倉保から離れる事はできないのだ。


かといって、この会社を去るという選択肢もなかった。


この時代に、せっかく手に入れた正社員の職を手放すなんて無謀にも程があるし、また、他営業所への異動願いを出すというのも大いに抵抗があった。


新しい環境でまた一から人間関係を築いて行くというのは、私にとっては尋常ではない精神的負荷となる。


たまたまここでは恵まれていただけ。


良識的で常識的な方が多く、優しく受け入れていただけたから溶け込む事ができたけれど、次もそうだとは限らない。


もしかしたら師岡さんのような人ばかりに囲まれてしまうかもしれない。


学生時代のような立ち位置に戻ってしまうかもしれない。


そうなってしまったら、とてもじゃないけど頑張れない。


そして一度逃げてしまったら、今度こそもうダメだと思う。


なまじ平和な時を知ってしまったから。


いよいよ人間が怖くなり、自分の殻に閉じ籠るようになって、そのまま社会復帰ができなくなる予感しかしない。


だから私はここにしがみついているしかない。
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