美しいだけの恋じゃない
私も主任も、思わず唖然として彼女を見送ってしまったけれど、すぐにどちらかともなく視線がかち合った。


「…災難だったね、須藤さん」


彼がコソッと囁く。


「あ、い、いえ」

「ホント、困った人だよなぁ…」


苦笑いを浮かべつつそう呟いたあと、表情と声音を変えて彼は話を続けた。


「誰かに言われるまでもなく、須藤さんはいつもきちんと備品や消耗品を補充してくれているもんな。そのお陰で俺も含む、課内の全員がスムーズに仕事できてるんだから。ホント助かってるよ」


そしてにっこりと微笑む。


「これからもよろしく頼むね」

「は、はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします」


私の返答に笑顔のまま頷いてみせてから、主任も自分のデスクへと戻って行った。


相変わらず、とても公平で公正な人だな、と思う。


感情的になっている女性を諌めるのはかなりのエネルギーを必要とするだろうけれど、躊躇なくその役目を買って出てくれて、そしてそのメンタルに引きずられる事なく、あくまでも冷静沈着に、相手を無駄に傷付けないように、話を進行して下さった。


さすが、ライバル多数の営業部で、順当に出世して行っている人だけの事はある。


井上主任のような上司に見守られながら働けるのは、とてもありがたく、幸運な事だとしみじみ思う。


ただ……。
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