神井くん 初めてのチュウ
 彼女は少し遅れて俺の後ろをついてきた。ドキドキが治まらない。彼女は何も言わない。やっぱり、止めとけばよかった。というか、、ちゃんと、キスしようって言ってからすればよかった。こんな奪うような不意打ちのキス。多分、ファーストキスだったのに。ごめん。ホントにゴメン。とか、頭では反省しているフリしてるけど、心の中はフワフワと天国でも歩いている気分だった。彼女にキスした。キスしてしまった。

「じゃあ、また、明日。」
彼女の家の前で俺が言うと、彼女は
「あ、はい。」
と間抜けな返事をして、家の前の石段に上がった。

 俺は彼女から目を逸らしたまま家路を歩き始める。顔がニヤけてしまって、どうしようもない。唇も頬もすんげー柔らかかった。それから、甘い匂いがした。思い出しては頬が火照ってくる。火照った頬を冷ましたくて、少し上を向いて歩く。と、後ろから足音が追いかけて来た。走る靴の足音は俺の正面に回り込んで、突然抱きついて来た。

「どうした?」
まさか、怒ってるのか?
「もう一度して!」
彼女もまた頬を染めて、必死な表情で言う。もう一度って、キスの事だよな。だよな。
あらためて彼女を見る。彼女は目をキラキラさせて、俺の顔を覗き込む。パタパタ振ってる尻尾が見えるようだ。

  普段の彼女の印象は、明らかに猫だ。誰に聞いてもそういうだろう。凛とした表情で遠くを見ている瞳。だけど、そう、こういう時の彼女は、子犬みたいに愛らしい。

 この状況で唇にキスしてやれる程、俺は慣れてない。俺だってさっきのが初めてだったんだ。悩んだ末に俺は彼女の額にチュッと音をたてて口づけた。こういうのもやってみたかったんだ。照れ笑いしながら彼女を見ると、明らかにむくれている。
 
 
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