鬼社長のお気に入り!?
 軽い気持ちでジークスへ誘ってみたが、ある日、彼女はのこのこと俺の会社に面接にきた。どこぞの誰かも知らないような男の話を真に受けてよく言えば素直なヤツ。悪く言えば騙されやすい女。


 それが俺の彼女の印象だった。


 しかし、彼女はドジではあるが俺の思った以上に仕事のできる人材で、いつの間にかデザイナーとしてどこまで成長していけるのか楽しみになっていた。そして試しに俺の契約先である武川ファニチャーの依頼を彼女に任せてみることにした。


 今まで電化製品しか扱ってこなかった彼女にとって家具は初めてのジャンル、試行錯誤しながら夜遅くまで残って仕事をしている姿に俺は日に日に目で追うようになっていった。


 武川ファニチャーの依頼は俺にとっては小さな案件だったが、彼女にとっては初めて任された大きな仕事、懸命になっている彼女はデザインのことしか頭になくて、どんなものを作り出せば世の中の人が喜んでくれるだろうかと、純粋に考えていた頃の俺を彷彿とさせた。


 そして俺の密かな心配をよそに、彼女は武川の仕事を無事に成功させた。あの嬉しそうな笑顔をみたら、らしくもなく落ち着かなくなって、この年で動悸息切れなんて勘弁してくれよと内心焦った。


 おそらく彼女に好意を抱き始めたのはこの時だったのかもしれない。
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