鬼社長のお気に入り!?
 そんな時、久しぶりに石川教授から講演会の講師としてS大に招かれることになった。 桐生がその大学で毎年講演会をしているということも知っていた。だから俺はいつか講演会を任せて欲しいと昔ちらっと頼んだことがあったのだが、まさか今になって依頼されるとは思ってもみなかった。


 桐生電機の仕事をじわじわと奪い、赤字へ追い込む。


 これが俺の桐生電機に対する最終的な目的だった。武川ファニチャーも杉野のおかげで信頼度を上げることができた。


 そう思って講演会に臨んだはずだったが、一緒に彼女を連れてきたのが運の尽きだったのか、俺が忙しい合間を縫って作成した学生向けの資料データをものの数分でなくしやがった。あの時ばかりは「大のつく馬鹿」と散々罵ったが、彼女はそこまで頭の悪いやつでもなかった。自分でしでかしたミスは自分で解決するというスタンスは気に入った。しかも俺が資料を作り直している間に行っていた前座は、思いのほか興味をそそられた。
“デザイン史とデザイン文化”というテーマは奇しくも俺の卒論と同じタイトルで、自分が講演する立場も忘れて思わず聞き入ってしまった。


 けれど、「なかなか面白かった」なんて調子づかせることも言う必要ないだろうと、このことは俺の胸の中だけにしまっておくことにした。
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