鬼社長のお気に入り!?
 俺は忙しい中、一番でかい案件だったエイレックの新作商品のデザインに産みの苦しみに悩まされていた。杉野ではないが何度デッサンをリテイクされたかわからない。いつものように応接室で引きこもって考えていると、急に眠気に襲われた。しかし、そんなまどろみも、いきなり現れた彼女によって打ち消された。泣きそうな顔をしながら「大丈夫ですか?」と尋ねてくる。何か勘違いしてやしないかと思ったが、起こされたついでにもう一度デザインを考えようとした。それでも俺の頭はモヤがかかったようで思うようにアイデアが浮かばなかった。そんな時、彼女が思いもよらないことを言ってきた。


 正直、彼女の指摘は盲点だった。ここは素直に彼女のアイデアを参考にするとしようと変な意地を張らずに考え直したデザインがなんとすんなり先方からOKが出た。


 そして、つい理性を失ってしまった俺は否応なしに彼女にキスをした。


 なんでキスなんかしてしまったのか。しばらく考えていたが、答えはわかっていた。


 おそらく、俺は彼女に惹かれている。


 ここは男らしく認めるべきだと思ったが、どうしても自分の気持ちをごまかそうとしてしまう。


 いい歳した男が情けない。


 しかもそんな彼女に助けられてしまうなんて、悔しいような嬉しいような複雑な気持ちにさせられた。
< 359 / 367 >

この作品をシェア

pagetop