大野さん 初めてのチュウ
 私達の関係は当分の間、部内では内緒にしたいと神井くんは言った。部の中での彼の立場を考えると確かにそのほうが良さそうな気がした。彼は常に嵐の中心にいて、みんなを引っ張っていく。それに、正直な所、私自身も活動中にどんな顔で彼と接したら良いのか、よく解らなかった。からかわれたり、冷やかされたりするのは苦手だ。だから、素直に同意した。

「大野さん、彼がいたんだ。鈴木先輩?」
横江さんに尋ねられてしまった。どうしよう。
「ちっ、違う。」
違うけど、、、なんて答えたら良かったんだろう。うわ、神井くんがすごい目つきで私を睨んでいる。怖いよっ。

気付くとさらに事態が悪化していた。みんなが私の視線の先を探る。
「部長?」
たまたま、神井くんの隣にいた原くんに皆の視線が集まる。
「え、俺?」
原くんはちょっとびっくりしていたが、何を思ったのか、ふふんと笑った。
「その辺は、みんなの想像に任せるよ。」
「ええっ。」
今度は私がびっくりしてしまった。みんな、訳が分からなくなり、ぽかんとしている。
神井くんがため息をついた。どうしよう。私どうしたらいいの??

冷や汗をかいていると、演出が事態を納めてくれた。
「まあ、いいや。これは二人で自主練しておいてもらって、主役と友人、芝居を続けて。」
結局、何がなんだかよく解らない。宿題は残ってしまったけど、この場を離れられるのはありがたかった。

 その後も舞台の袖で山田くんと自主練習したけれど、男子と自然に抱き合う練習なんて、山田くんには悪いけど、どう考えても無理な気がする。だって、すぐそこに彼がいるのに。。ため息をついていると、今度は神井くんが怒られていた。台詞が出なかったみたい。目が合うと睨まれてしまった。それは私のせいじゃないでしょ。
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