大野さん 初めてのチュウ
初めてのチュウ
 活動後の帰り道は霧雨が降っていた。神井くん今日は電車かなぁ。

 ひと駅乗って電車を降りると、改札に彼の姿を見つけた。私を待っててくれたみたいだけど、ちょっと顔が恐い。私が走り寄ると、彼は無言で歩き出した。私は彼の後について歩く。
 2人で並んでバスを待ってるのに、やっぱり無言。まだ怒ってるのかな。ラブラブで歩くとか、神井くんとだってしたことないのに、どうやったら上手くできるんだろう。どうして引き受けちゃったんだろう。呆れられてしまっただろうか。ため息ばかりがこぼれた。

「ごめんね。ヘタクソだし、変なこと口滑らしちゃうし。本番までに時間もないのに、上手くできるようになるかなぁ。主演だって変わったんんだから、たかが端役に時間かけてる訳にいかないよね。」
 とりあえず謝ってみる。
「明日はがんばるから。」
「。。。。。。」

 神井くんの顔というか、目つきは怖いと評判だ。本当の彼は、何に対しても真剣で熱心なだけで、怖い人ではなく、むしろ優しくて、わりと親切な人だと私は知ってる。けど、今はこの沈黙がやっぱり怖いというか、きつい。視線もちっとも合わせてもらえない。。

「ねぇ、なんか言ってよ。口滑らしたのは、ほんとごめん。でも、私だってがんばってはいるんだよ。何かないの?アドバイスとか。」
「もう、いいよ。」
「。。。。」
そんな、見捨てたみたいな言い方しなくても。。。

「役者の奥さん貰ってる演出家とかって、結構いるよな。」
「???」
「奥さんと他の男とのラブシーンを演出したりしてるよな。どういう神経してるんだろうな。」
「何の話?」
「見てられないんだよ。気が狂いそうだ。」
あれ?これって、、もしかして、
「もしかして、私と山田くんのこと?」
ヤキモチ?神井くん、ヤキモチ焼いてるの?
< 4 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop