回り道でアイス

 水平線の向こうにむくむくと大きな入道雲が見えて、夏の空だと思った。
 爽快な青天から降り注ぐ陽射しが、容赦なく半袖のシャツから伸びた両腕を攻撃してくる。時折海風が髪やスカートの裾をはためかすけれど、ほんの気休め程度にしかならない。緩やかに続く坂道の傍に立つ街路樹からは蝉の声が賑やかに鳴り響き、逆サイドに延々と続く金網の向こうからは微かに金属バットの音とかけ声が聞こえる。


 夏休みの最中の気怠い登校日。何となく部活のある生徒以外は殆どが下校する時刻まで図書室で暇を潰しのんびりと学校を出た。
 普段はまずしない遠回りをして帰る気になった理由は、このまとわりつくような暑さと気まぐれが半々だ。


 手に持った袋を開けると、一瞬冷気が中からフワッと漂いすぐに熱気の中へと消えた。この調子じゃ急いで食べないとすぐに溶けてしまうだろう。
 木の棒を持ってアイスを口に入れると冷たさと甘さが心地良く口内を満たす。中に入った氷の粒がカリカリと心地良い音を立てた。


「いーもん食べてんね」


 不意に至近距離から声をかけられ、思わず手に持ったアイスを落としそうになった。


 声のした方を見ると、すぐ横の金網の向こうにペットボトルを持った半裸の男の子。
 その何も着ていない上半身と陽光を反射してキラキラと輝く水滴が目に飛び込んで来て、即座に目を逸らした。眩しい。

< 1 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop