So Far away
一人で列車の個室の席に、私はイヤホンをつけて座っていた。
耳元から聞こえるジャズのような音楽を聴きながら、手紙を繰り返しなぞるように読んでいる。
元から入っている曲ではなく、ラジオから流れた音楽だ。
ジャズはあまり好みじゃないけど、番組選択で人の話す声がないのはこのチャンネルだけだった。
個室をえらんだのもそうだが、こういった旅路は騒がしくなくて静かな方がいい。先の見えない長旅ならなおさらだ。

ふと手紙から目を離し、車窓へと視線をうつす。
景色は積もった雪で真っ白。点々と植わっていた針葉樹が見えるが、それ以外は真っ白だ。
空でさえ雪が降って、全く青みがない。

全く退屈な旅だ。
着いてくる人も、見送る人も旅先で待つ人もいない。
自分で選んだ道だから、声に出して不満は言えないけれど。
孤独な時間を長時間過ごすと、人が恋しくなるものだ。
合わない人間や苦手な近所の住民まで脳裏に浮かんでくる。

まるで年をとったような気分だと笑った。窓に映る自分の口元が不自然に歪む。
本心でないせいでとても不気味だ。
心から笑うことに馴れた人間が心から羨ましい。自分の顔でさえ最悪だと心が底なしに沈む。

沈んだ顔を見飽きたところで、ガタッと個室のドアが開いた。
びっくりして、『うわっ』と小さく叫ぶ。
ドアの方には、若い男性が立っていた。
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