終われないから始められない


「いらっしゃいませ、どうぞ」

カウンターの端、窓口業務をする。
少しずつ慣れてきたところだ。

お金の入出金。
用紙に記入しているお客様に声を掛けられた。

「おっ、この店に久しぶりに新人さんじゃの。
わしは滅多に窓口には来ないけど、よろしく頼むよ」

通帳で名前を確認、顔を見て覚える。
大丈夫。次に来店された時、きっと覚えていられる。

「はい、こちらこそよろしくお願いします!」

ただ事務処理するのとは違う、色々配慮しながらって大変だ。

初歩の初歩。
頑張らなければ…。
初心忘るべからず。


「どうだ?少しは役に立ってるか?」

仕事が終わり、まだ定時で帰らされてるから、今はアパートに居た。

今日は早くあがれたと弘人が来てる。

「う〜〜〜」

「唸るな、唸るな」

「まだ全然出来て無いのが自分で解るから悔しくて…」

「まあ、みんなそんなもんだって、最初なんだし」

「そうだけど…、何だかよく解らなくて出来ないモノがあると歯痒くて…」

「そう言えばさ。置いてあるから見た事はあるんだけど…」

「何?」

「俺まだ祐希の制服姿見てないんだよな〜」

弘人が後頭部で腕を組んで天井を見上げてる。

「ブッ」

飲んでるコーヒーを噴きそうになる。
実際、少し噴いちゃったし…。

「別に着てなくても…、その制服の、そう、それ。見たまんまだよ?」

「えーー、着てるとこ見たいかも」

…いつから制服フェチになったのよ…。

「窓口に来たら見えるけど?」

「いやいや、用も無く、じっくり眺めたら変態だろ…」

「まあ、ただ見てたら変態かも?
不審者で直ぐ通報されたりして」

「だろ?だから、な、な?」

手を合わせてお願いされる。

「もー、面倒臭いなー。…ちょっとだけだからね?」

「ヤッター」

なに?そのガッツポーズ…。

「しようが無いな〜。ちょっと待ってて」

「おお。いくらでも待つ」

…変態。通報してやる。

「…はい、こんな感じ」

「おお!ぉおー、…ぉー」

やっぱ可愛いぞ、祐希。

「もういい?」

「ああ。納得!!」

変なの…納得って何よ…。

着替えた。

「知り合いのおっさんが、最近、祐希んとこの支店に行ったらしいんだ」

「へえ。それが?」

「こうこう、こんな髪型で、こんなスタイルで」

手でボンッキュッボンをする。

「こんくらいの身長の(腕を上下に拡げて)若い子が居たって言う訳よ」

「で?」

「だから焦ってんの」

?全く、話の意図が掴めない。

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