終われないから始められない
会いたかったんだ


仕事は休職する事になった。
弘人のおじさん、おばさんが、まるで本当の親のように、…私が妙な事をしないようにと…そばに居てくれている。


お葬式には出られなかった。出られる状態では無かった。

受け入れられなかったから。

弘人の体を無くさないで。
嫌、そんな狭くて窮屈なところ、弘人は嫌いなの。苦しいから入れないで。
…私も弘人と一緒に行く。
だから、弘人と離れ離れにしないで。
一緒に居させて。



19日、二十歳の誕生日。

「祐希ちゃん、どうしようか凄く迷ったの。
…これ。あの子の想いだから、私が決めちゃいけないのよね」

直子さんが私の手を取って小さい箱をのせる。

「…これが出来上がった時、あと二ヶ月半くらいに為ってたの、二人の入籍予定の日までね。

最初は間に合わないかも知れないって…弘人、言ってたのよ?

弘人、内緒で作ってたの」

サーモンピンクの箱の中にチョコンと納まっていた。

「苦労したって」

「…えっ」

「サイズ。内緒でしょ?
だから、計るのに苦労したって。
手に触ったらすぐ目を覚ますから。
祐希ちゃんが眠ってる時に、計ろうとしたみたいよ?。
そうこうしてると自分の方がウッカリ寝てたって。
何度も失敗したって。

あの子らしいわよね。
焦ってるところが…目に見えるようだわ。

…何日も、何度も、頑張ったって。
上手くいかなかったらサイズが合わないからって。
デザインも相談無く決めちゃったから、祐希のやつ、気に入らなくてブーたれるかも知れないってね。

あいつ、細くて折れそうな指なんだ。
改めて見ると白くて綺麗な指してたんだ、なんて言うのよ。

母親相手に惚気るなって、小突いてやったわ。
そしたらね…、お袋達もいつも何だかラブラブしてるじゃんかって言うの。

…最近ね、あの子、よく話しをするようになってたのよ?
祐希ちゃんのお陰ね。

…無口でつまんない、…必要な事しか話さなかった子が。
祐希ちゃんのこと、嬉しそうに…恥ずかしげも無く話すの。

…今はどうしたらいいか、何も考えられないと思うのよ。
私だってそうなのよ…。

私も、弘人が居ないなんて、…きっと一生受け入れられない。

でもね、人は生きていかなくちゃいけないの。
解るわよね?
自分で勝手に命を終わらせる事はしてはいけないの。解るわね?

これ以上、おじさんとおばさんを悲しませる事は絶対しないで。ね、お願いよ」

弘人の家に居ても、私の部屋に居ても、弘人の触れたモノが目に入ると、思い出してどうしようもなく逢いたくなる。

「無理はしなくていいから。
少しずつ人と関わっていかないとね。
人は一人では生きられないのよ?

どう?、短時間でいいって支店長さんも言ってくれてるし、事情を解ってくれてる所がいいかも知れないわ。

後方事務を手伝って欲しいそうよ。貴女を必要としてくれてるの。
やってみない?
ダメならダメで、その時また考えたらいいじゃない?」

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