空よりも高く 海よりも深く
 まあそういうわけで、遅まきながら息子の教育を少しずつ始めているところだ。

 だが、本当にあれは天然だ。

 教科書に書いてあることは一応理解しただろうが、おそらく『恋愛感情』についてはちっとも分かっていない。リディルへの『好き』も、友達や家族が好きと同じだと思っている。

 純粋なんだか情緒未発達なんだか。一体誰に似たのか。

 思い浮かぶのは、赤い髪の愛しい妻だ。

 確かに思い当たる節がある。アリアも相当に鈍感だった。ランスは彼女を口説くのに相当根気を必要としたのだった。フェイレイはきっと、アリアに似たのだろうなと思う。

 リディルもそういった方面にはあまり積極的でないようだし。いつになったら『おじいちゃん』になれるだろうな、と。ランスは遠い目になる。
 


 未来の家族風景を思い描いていたランスは、そこでふと気づく。

 フェイレイもそうだが、ランスも一人っ子だった。亡くなった父も一人っ子だった。

 そういえば、親戚がいない。

 アリアの親族には弟がいる。確か母にも兄弟はいたはずだ。だがグリフィノー家の親戚がいたという記憶はない。

 遺伝的にそういう家系なのだろうか。家系図を残すほどの家ではないので、祖先を辿ることは不可能だろうが。グリフィノー家は代々一人しか子が生まれない、なんて可能性もあるのではないか。

 そのことに思い至り、ランスはますます孫の誕生が不安になった。もし“生まれにくい”血筋なのであれば、息子にも言っておいた方が良いだろうか。出来ればたくさんの孫に囲まれて、笑顔溢れる家庭で人生を終えたいものだが……。

「……」

 シェルター建設のための重機が行き交う工事現場を見ながら、ランスは思う。

 “あのこと”も、言うべきだろうか。

 自分では答えを出すことが出来ず、『争いのない、平和の中で生きろ』という父から受け継がれた言葉は、自分の中でずっと居場所を定められず、グルグルと回り続けている。

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