空よりも高く 海よりも深く
 今は問題がないように見える。

 フェイレイの剣士としての腕前は並みの大人では敵わないほどで、北の街のシンボルであった大時計を剣で破壊してしまうほどの力を持っている。

 アリアは暴れん坊の息子に、歴戦の魔銃士ガルーダ班長とギルド随一の剣士、そして優秀な精霊士をつけてくれている。きっとランスの『よく見ていてくれ』という言葉を覚えていてくれているのだ。

 確かに驚異的な力だ。

 昔の自分もそうだった。

 自分で自分が恐ろしくなることがあった。

 前線から退いた今も、どこかその恐怖に脅かされている。なるほど、確かに自分は平和の中で生きるのが良いのだろうと思う。何故かは分からないままに、何かに急き立てられるように。

「ランス、どうかしたか?」

 難しい顔をして黙り込んだランスの顔を、ニクスは心配そうに覗き込む。

「フェイ坊のことはなるようになるさ、親としちゃ心配だろうが」

 その言葉に、フェイレイの教育について語っていたのだったな、と思い出す。

「ああ、そうだね、なるようになるよね」

「……他にも心配ごとか? 随分顔色が悪いように見えるぜ?」

「ああ、うん」

 心配事はあるにはあるが、今胸の中にあるものをどう表現したら良いのか分からず、ランスは別の心配を口にした。

「今日はリディルが初めて任務に出る日なんだよ。フェイと同じ班になったそうだから、信頼ある昔の仲間と一緒だし、大丈夫だとは思うんだけどね……」

 そう、今日はリディルが精霊士として初めて任務に就く日だった。

 フェイレイも候補生から正規の傭兵になったので、精霊士候補生となったリディルをその班で受け入れてもらったのだ。

 ちょうどよく『戦慄の聖女』と呼ばれる凄腕の精霊士、メイサ=ホーキンスもパーティにいるので、指導係には彼女が任命されていた。

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