空よりも高く 海よりも深く
「しかし優秀な精霊士ならばいくらでも……」

「殿下は女王召喚が出来る。証人が必要ならば殿下とパーティを組んでいるフェイレイ=グリフィノーとヴァンガード=ユウリ=エインズワースを呼ぼう。彼らは殿下の女王召喚を目の前で見ている」

「なんと……」

「どうしてもと言うのであれば、殿下ご自身にその血を証明していただく」

 会議室に集められた一同は、そろって口を噤んだ。

 それこそ畏れ多い。神の一族に自ら証明させるなど。

 精霊の女王召喚。これに勝る証拠などない。何故ならば、精霊の女王を召喚するには、この星で最も貴い血、ユグドラシェルの血統でなければならないからだ。

「では貴女は、殿下を娘として育ててこられた……御母堂であられるのか」

 震える声が上がった。

「……そうだ」

 アリアは重々しく頷く。

 ガタリ、と一人が立ち上がった。それに呼応するように、ガタリ、ガタリと、次々に椅子をひっくり返す勢いで全員が立ち上がる。そして、揃って両手を胸の前で組み、跪いてアリアに向かって頭を下げた。──ユグドラシェル皇家の者へ対する、最上の礼だ。

「よせ。私はただのギルド支部長だ」

 アリアは片手を振り、皆を諫める。

 しかし頭を下げたままの役員たち、部隊長たち。それを見渡し、アリアは声を張り上げた。

「惑星王はおっしゃった! 皇都で暗躍する不穏分子たちが落ち着くまで、ここで皇女殿下を保護せよと!」

 アリアは声を張り上げながら、痛む胸を抑えるように拳を握りしめた。

「だがしかし、惑星王のご意思に反して、反乱分子たちが事を起こそうとしている! 星府軍を操り、殿下を浚おうとしているのだ!」

 頭を下げていた人々が弾かれたように顔を上げる。その目に闘志が湧き上がっていくのが見て取れた。

「我々の任務は、惑星王に仇名す逆賊から皇女殿下をお守りすることだ! 皆、心してかかれ!」

「はっ!」

 敬礼をする者たちに、アリアも敬礼を返す。

 正義はこちらにあると信じ込ませる。惑星王の御心は我々とともにある。そう、思いこませる。

 なんと罪深いことだろうか。すべては自分たちの我儘だというのに。敬礼をするアリアの手は、微かに震えていた。

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