空よりも高く 海よりも深く

6.飛翔

 激しく火花を散らしていた剣戟の音も、身を貫く銃弾の音も、人々が地を踏みしめる音も、呼吸する音も。すべての音が、僅かな間だけ戦場から消え失せた。

 人々を我に返らせたのは、上空を飛んでいた飛行艇が爆発して散っていく光景だった。

 空を覆い尽くすほどの大群で現れた飛竜たちは、白と黒の飛行艇に襲い掛かった。敵も味方も、人族はすべて魔の群れに呑み込まれて爆音を響かせた。

「──全員、退避!!!!」

 アリアがインカムに向かって叫ぶ。

「シェルターへ急げ! 撤退だ! パイロットはそのまま空域を離脱しろ! 各地に散っているヤツらは撤退を援護!」

 その声に、固まっていた傭兵たちが一斉に動き出した。魔族相手に戦ってきた者たちだ。一度に二体くらいなら相手をしたことがある。けれども、数十、下手をすれば数百にも及ぶ竜種を相手にすることは、命を投げ捨てるのと同義だった。

 撤退を始めた傭兵たちに、星府軍の軍勢も動き出す。

「逃がすな! 全員討ち取れ!」

「正気か!」

 星府軍の指揮官の叫びに、アリアは思わず怒鳴り返していた。

「あれはお前たちにとっても敵だろう! 命が惜しければ退け!」

「退けぬ!」

 逃げ腰になっている兵士たちの真ん中で、その指揮官は唇を震わせながら言った。

「退けぬ……あれは、グルトスの時と同じ……国ひとつ滅ぼすまで止まらぬ。そして……逃げた兵も、同じく」

 ギャアアアア、と悲鳴が上がった。

 今まさに撤退しようとしていた兵士たちに、上空から舞い降りてきた巨大な飛竜の鋭い牙が襲い掛かっていた。

「退けぬ。下級兵士である我々に逃げ道などない。進むしか生きる道はないのだ。我々は死ぬまでお前たちを追う」

 粉塵を巻き上げて暴れる飛竜たちを背に、星府軍の指揮官は震えながらもそう宣言した。その姿にアリアも心身を凍らせた。

 上空を見やれば、飛行艇は敵味方関係なしに飛竜に襲われていた。焔色に燃え上がる薄い青空は殺戮に染まっている。

 だがしかし、ティル・ジーアに群がる様子はなかった。その両脇を飛ぶ護衛艦には群がっているのに。

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