空よりも高く 海よりも深く
「惑星王は国の滅亡など望まれていない。……そうではないか、元帥殿」

「皇家に刃を向ける者を赦すことは出来ません。あなた方は皇女殿下を隠匿した罪で裁かれるのです」

「それは……誤解だ。皇女殿下は惑星王に弓引くつもりなどない。ただ平穏に暮らしていたいだけだった。それを惑星王もご存知のはずだ」

「なんと言われようと……私はセルティアを討たなければならないのです。世界の平和のためには、必要な犠牲なのです」

「意味が分からないな」

 アリアは頭を振った。

 話が進まない。互いの意思が通じ合っていない。そんなもどかしさを抱いていると、アレクセイが血を流していることに気付いた。黒い軍服に隠れてはいるが、首元から夥しく血の流れた痕がある。

「……これですか」

 アレクセイはアリアの視線に気づき、僅かに笑みを浮かべた。

「この艦に侵入してきた赤い髪の少年にしてやられました」

「ほう……?」

 あの息子にそんな技量があったのかと、アリアは内心で息子を褒め称えた。

「彼は皇女殿下と罪人であるエインズワース夫妻を連れ、更には皇后陛下を人質に逃亡しました」

「ぶふうっ!」

 アリアは思わず咽た。

 皇后陛下。ピンクブロンドの巻き毛の、美しい少女の姿絵が思い出される。今はもう成人しているだろうその人は、惑星王の妻。つまり神の一族。

 皇后陛下を人質に取ったのか。それで逃げられたのか。どうやってこの激しい戦闘区域を離脱したのかと思ったら、そういうことだったか。なんという畏れ多いことをしでかしたんだあの馬鹿は。

 ……うん、まあいい。息子の罪は母の罪。何とかしようではないか。アリアは開き直った。

「てか、なんで皇后陛下が軍艦などに乗っているのだ。皇族を危機に晒すなど、何をしているのだ貴様」

「……それについては申し開きのしようもありません。ただ、陛下は大変、お元気な方であられますので」

「元気か」

「はい、大変に」

「……そうか」

 何だか大変なのだな、というのをアレクセイの少し遠くなった目から察した。そういえば皇后陛下は世界一の拳闘士と言われていたのだった。成程、それは元気だろう。

 まあそのことは横に置いておいて。


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