夏彩憂歌
1943年になった。

この頃にはもう、日本はずいぶんと不利な戦局だったらしい。

だけど私たちは、そんなこと知る由も無かった。
だって、ラジオから伝えられる情報は全て国民の戦意を高揚するものだったから。

我が家にはもう一枚、赤紙が来た。

秋兄さんに続いて、3番目の昭彦兄さんも徴兵されたのだ。

同じような悲しみに暮れ、だけどそのたびに松兄さんや慶兄さんの優しさと強さに何とか助けられて過ごしていた。


田舎でも大人がぴりぴりするようになっていった。

米の生産力は減退し、「さつまいも」増産が農家には命じられた。

7月の、暑い日だった。

私の、誕生日。7月17日。

慶兄さんは難しい顔をして縁側に座っていた。

「慶兄さん、どしたん?」

「文月」

私を見ると表情を和らげた慶兄さんは、それでも憂いの表情を隠しきれない様子で重々しく口を開いた。

「見てみ、これ」

慶兄さんが私に差し出したのは新聞だった。

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