蜜愛フラストレーション
六.いたしかゆし


「ふ、ふしだらな世界……!」

慌てて口を覆ってどうにか声を押し止めた目の前の女性。だが、こちらを凝視するどんぐり目は限界まで見開いていた。

休日のランチタイムの店内で口にするほうが不謹慎ではないかと思うが、それは心に留め置く。

「中途半端な、ね」と、苦笑してかわすのもいつものことだ。


土曜日の今日、ある人と約束をしていた私は、横浜にある人気の中国料理店を訪れていた。

ここは飲茶とスイーツ、それらに合う中国茶の品揃えが豊富で、体調や悩みに応じて茶葉を勧めてもくれる。

その、中国らしい赤を基調としたお洒落な店内は多くの女性客で埋め尽くされていた。

向かい合わせのソファ席で私の前には、セミロングのさらさらな髪を持つ可愛い人がひとり。

「お願いだから萌ちゃん、自分を大事にしてっ!」

「大人になったねぇ、鈴ちゃん」

その女性に身を乗り出して顔を覗き込んで声高に言われ、ついつい頬も緩んでしまう。

「いやいや、萌ちゃんと大して年齢変わんない!てか、私だって立派な大人だよっ!」

童顔に見られることがコンプレックスな彼女は、むむっと頬を膨らませている。こんなところが小動物らしくて愛らしいことには本人が一番気づいていない。

表情のコロコロ変わる彼女は、斉藤 鈴(さいとうりん)。私より2歳下のいとこである。

母同士が姉妹という私たちは年齢も近く、小さな頃から互いの地元でちょくちょく遊んでいたので姉妹のように仲が良い。


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