蜜愛フラストレーション


まるで、この状態を引き起こした自分が悪いと自らを責めるような口振りの彼。そこで、パタンと小箱を閉じる音が静寂に響いた。

「——違うっ!」

「え?」

小箱をテーブルに置いた彼は膝断ちで顔を覗き込むと、止め処なく溢れる涙を拭ってくれる。

「大丈夫だから」のひと言のあと頭を撫でられて。中途半端な自分と決別するように、私は首を大きく横に振った。

「わ、たしっ、ゆ、うと、き、傷つけっ、て、」

「いや、俺は何も傷ついてないよ。それは安心して?
でも、そうやって相手を慮れる萌を尊敬してるし、萌のおかげで変われたと思ってるよ」

堪えきれなくなり、ついに大泣きし始めた私の背中を、何度も何度もそっと撫でてくれた。

「ひっ、く、……わたっ、」

「うん、慌てなくていいよ。ゆっくりでいいから」

親しくなってから、寛容的なこの人に惹かれた。手酷く裏切って欲しかったと思うくらい、何があっても嫌いにはなれなかった。

確かに意地悪だったりもする。けれども、どんな時でも真っ先に手を差しのべてくれる。それでいて、時に甘えてくるところが可愛くて。

私には勿体ないとても素敵な人だけど、誰よりも愛しい人だと改めて思う。——だから、答えはひとつしかない。

「わ、たし、はっ、……私なんかで、いいのぉ?ほんと、に……?」

「“私なんか”じゃないよ。俺は萌がじゃなきゃダメだ。——また一緒に、イチからやり直そう?」

バリトンの柔らかな声で告げられ、喉に痞えた返事が声にならなくて。何度も何度も大きく首を縦に振っていた。


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