嵐の夜に。【短編】
先生の顔を見た。
「あの話、女性がとても魅力的だと思わないか?」
「あ、思う! あまり似た女性もなくて、それぞれに魅力があって……」
「だからこそ『源氏物語』に惹きこまれると思うんだ。
もしも女性に魅力がなければ、光源氏も単なる軽薄な男だっただろう。
女性たちが魅力で、そんな彼女らが惹かれる男だからこそ、光源氏にも不思議な魅力を感じる。
さらには、女性ごとに違ったドラマがあって面白い」
「そっか、そうなのかも」
「そして、そんな魅力的な女性たちを相手にしながらも、光源氏の一生は幸せだったとは言いがたい。
もしも光源氏が女三の宮を正妻にせずに、紫の上を大切にしていたら、彼は幸せだったかもしれない。
でも、紫式部はそう書かなかった。
もしかしたら、ただ一人を一途に愛することのない男性が、真実幸せになれるわけがないと、皮肉ってるのかもしれないと私は思った。
私の個人的な感想だけどね」
わたしは返す言葉を思いつけなかった。