結婚したいシンドローム=特効薬は…あなた?【完】

「それで?山根主任はなんて?」

「蛍子……どうしたの?落ち着いて……」


きっと私は、必死の形相で雅人さんに迫っていたんだろう。彼がたじろぎ、驚いた表情を見せる。


「あ、気になってたから、つい……ごめんなさい」

「いや……操は、まだ結論は出してない……でも僕は、産んで欲しいと思ってる。一輝も僕と同じ気持ちだよ」

「そう……」


そんな短い会話を交わし、宴会場に戻る途中、湧き上がってきた疑問。


私は、どっちの答えを期待してたんだろう……当然、授かった命を消して欲しくないと思っていた。けど、そうなれば、一輝はその子供の父親になる。そして、山根主任の夫になるんだ。


―――もう、私の手の届かない所に行ってしまう。


心の底で、そんなのイヤだと叫んでる私がいた。それと同時に自分を諌(いさ)めるもうひとりの私もいた。


イヤだなんて思っちゃいけない。雅人さんを裏切っちゃいけないんだ。


先を行く彼の背中を見つめながら、そう自分に言い聞かせる。


宴会場に戻ると、さっきより人数が増え主役の一輝の周りに人の輪が出来ていた。そして一輝の隣には、笑顔の山根主任の姿が……


山根主任のその笑顔を見た瞬間、なんとなくだけど、彼女はもう決断しているんんじゃないかと思った。雅人さんはああ言ってたけど、あの幸せそうな笑顔が全てを物語っている。一輝も楽しそう。とってもお似合いのふたりだ。


そうだよね。これでいい。こうなるのが一番いいんだ。


込み上げてくる悲しみの感情に無理やり蓋をして自分を納得させると、ビールを喉に流し込む。


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