恋とは停電した世界のようです

スープと一緒に運ばれてきたサラダに手をつけながら
ルーカスさんが、わたしと視線を合わせる。

「三澤さんは仕事が終わったら、すぐこちらに向かうと言ってましたので…」

まるで、代わりが僕で申し訳ないというように眉根を下げるので
わたしは慌てて口を開いた。

「いえ、そんな…お仕事が長引くのはよくあることですし
それにこうしてルーカスさんが来てくれて、その…うれしいです」

そう言うと、彼の顔がやっと、すこしだけ安心したように
やわらかくなった。

メインだと云われた仔羊のステーキに
ナイフを挿し込んでマスタードソースと絡めると
お肉の甘さと、マスタードのピリッとした辛さが相俟って
とても美味しかった。

噛むたびに肉汁があふれて
舌の奥でトロリとした感触が溶けていく。

(…美味しい)

お兄ちゃんと一緒に食べれないのは残念だったけれど
ルーカスさんと食事をすると、いつもより甘く感じる気がした。

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