ベビーフェイスと甘い嘘
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「……大丈夫ですか?」
声をかけられてハッと顔を上げる。
カウンターにいたはずの店員さんが、いつの間にか目の前まで来ていた。
「……あっ。はっ、はい。……だい、じょうぶ……です」
辛うじてそう答えたけど、舌が縺れてうまく言葉が出てこない。
心臓はドクドクと脈打って、指先は酷く冷たくなっていた。
たぶん……私は声を掛けずにはいられないほど、酷い顔色をしているんだろう。
「ほんとうに……もう大丈夫ですから。……ご迷惑をおかけして、すみません」
私に勝ち誇った笑みを見せながら、灯さんは店を出て行った。
あれから、どれくらいの時間が経ったのだろう。
いくらここが会話が聞こえにくい所だとしても、私達のやり取りは聞こえてしまっていたはずだから……
もうここには来られない。
私は居たたまれない気持ちで、逃げるように『pastel』を後にした。
***
……こんなはずじゃなかったのに。
私はただ、全ての嫌がらの犯人が、灯さんかどうかを確かめたかっただけだ。
修吾と灯さんが愛し合ってるとか、私の事を愛していないとか、
そんな分かりきってる事を、わざわざ聞きたかった訳じゃない。